雨と夢の後に~『ラスト、コーション/色・戒』#3
ラスト、コーションポスター

 初見から8日後に再見。初見時もそうだったが、今回も観客の年齢層が非常に
高い
。中高年男性が多く、途中退席される方が多い。私の隣は(多分)未婚のカ
ップル。仲良き事は美しき哉、しかし上映中に二人の世界でのおしゃべりは止め
て欲しかった。

 原作も読んでの再見だったけれど初見時同様見事に引き込まれ、長い上映時間
は全く気にならなかった。今回、気になったのは雨のシーン。性愛シーンと同じく、
雨のシーンも三回ある。

 一度目は、抗日演劇の舞台を終え、まだ学生だったチアチーたちが肩を組んで
歌うシーン。青春の素晴らしさを称える歌とは裏腹に、暗い空からはが降って
いる。飛び乗ったバスの窓から顔を出し、雨をその顔に受けるチアチー

 二度目は、チアチーとイーが初めて言葉を交わすシーン。台風によるこの雨は
イーを自宅に戻し、夫人やチアチーと共に麻雀卓を囲む。麻雀に疎い私は確信が
持てないのだが、このとき、イーはチアチーに勝たせるよう、牌を回していたよ
うに感じる。

 三度目は、イーとチアチーが初めて関係を持つ日。雨の中、映画館に出かける
チアチーを運転手が呼び止める。車に乗り込むチアチー。この雨も、二人の未来
を暗示
しているのだろうか。

ラスト、コーション7

 イー夫人は、夫とチアチーの関係に気付いていたのだろうか。チアチーが抗日
のスパイだということはわからなかったとしても、夫との関係は薄々気付いてい
たような気がする。足が冷えるイーを温めるという夫人だけれど、二人が性的に
夫婦である印象は薄い


ラスト、コーション5

 初見の感想で、チアチーを「生まれながらの女優」と書いた。彼女が抗日運動に
突き進んでいったのは、愛国心からと言うよりはマイ夫人を演じることの充足感
からだったような気がする。香港での夏休み、学生のサークル活動のようなノリ
の仲間の中にいて、チアチーは一人、その演技力を研ぎ澄ませてゆく。まだ経験
のない生娘だとは信じられないほど、巧みにイーを誘惑するチアチー。三年後の
上海で、彼女がクァンの活動再開への誘いに乗ったのは、「また舞台に上がれる」
という高揚感からだったのかもしれない。

 宝石店でイーを逃した後、人力車の上でチアチーは薬を手にする。何故、彼女
は薬を飲まなかったのか。クァンや仲間たちと運命を共にしたいという気持ちも
あっただろう。そしてもしかしたら、イーの手に堕ち、イーの元で命を終わらせたい
という潜在的な願望もあったのかもしれない。

「ウーは取り逃がした」というイーの秘書のセリフから、クァンやチアチーという
若者だけが利用され、犠牲になったことへの怒りも湧いて来る。束の間、愛に似
た夢
を見た男と女。戒めを破った代償はあまりに大きく、夢の果ては深く、暗い
谷底だったのか。
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[2008/02/20 13:36] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(3) | コメント(12) |
原作読了、あれこれ~『ラスト、コーション/色・戒』#2
色、戒文庫


 アイリーン・チャン短編集
 ラスト、コーション 色|戒

 集英社文庫/2007



 アイリーン・チャンによる『ラスト、コーション/色・戒』原作を読了。女性作家による
短編小説の脚色
というところもBBMと本作が「姉妹作」と言われる一因だが、BBM
同様、映画はこの短い物語を本当に巧く膨らませていると思う。イー宅の麻雀風景
に始まり、一貫してチアチーの視点から物語を回想しながら、ラストはイーの視点
に切り替わる構成
は見事。映画では三回に渡って徹底的に描写された性愛シーン
は原作にはないが、チアチーがイーとの逢瀬から心に響くものを感じたことは暗示さ
れている。女性たちの服装や装飾品、香港や上海の街並みが、映画の中でいかに
忠実に再現されていたか。原作を読みながら、映像が立ち上がってくるかのようだっ
た。

 原作では、イーとチアチー双方が「相手が自分を本当に愛していた」と感じている。
二人の関係が偽りのものだったとしても、そこにあった感情は確かなものだったと
信じているのだ。

ラスト、コーション8

 そしてこの物語も「若さとイノセンスの喪失」についての物語ではないか。チアチー
やクァンは若さゆえの無防備さで抗日運動に突き進み、それは後戻りできない道
った。殺人を犯したこと、望まない相手と「練習のために」ベッドをともにしたことで
「若さとイノセンス」を喪った二人。「どうして、三年前にしてくれなかったの?」若さ
ゆえに、成し遂げられなかった、気付けなかったこともある。もう二度とその場所
へ戻れない
ことは、若いときには決してわからないものだ。「遅すぎたのだ」

 ところで、初見のときに感じてどうしても書いておきたいことを二つ。
一つはやはり、あの「ボカシ」。観た方の感想もほとんどこのことについて怒りを持っ
て言及されているようだけれど、私も猛烈に腹が立った。あれは一体何の意味があ
って「ボカシ」ているのだろう? 映画そのものや監督や、俳優たちにもう少し敬意
払って欲しいと思う。いっそのこと、アン・リーが編集し直したという性愛シーンなしの
「中国版」を観てみたいと思った。DVDでは「無修正」になっていることを希望。

 そしてもう一つは、指輪のシーン。出来上がった指輪の入っている赤いケースが、
カルティエのものとソックリだったこと。と言うか、エンドロールでカルティエに
Special Thanksがクレジットされていたから、あの指輪(とケース)はカルティエ
のもの
なのだろう。ということはあの店はカルティエなのだろうか? いや、そん
なはずはない。なんだかあの場面は混乱してしまった。ケースを映すことがタイア
ップの条件だったのかな? ちょっと納得行かない

 映画のラスト、チアチーの部屋のベッドに腰掛け、物思うイー。夢の跡のような
シーツの皺をじっと見つめる。午後10時を告げる時計の音を聴く彼の哀切な表情
を生み出したトニー・レオン。やっぱり、凄い。

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[2008/02/15 09:56] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(1) | コメント(2) |
これもまた、愛の物語~『ラスト、コーション/色・戒』
ラスト、コーション


 LUST, CAUTION

 色・戒 Se, jie



 日中戦争下、抗日運動の女スパイとして親日傀儡政権の幹部イー(トニー・レオン)
に近付くワン・チアチー(タン・ウェイ)。貿易商マイ夫人としてイーを誘惑し、愛人とな
ることに成功したチアチーだったが、孤独なイーと次第に心を通わせるようになり・・・。

ブロークバック・マウンテンで世界を騒がせた巨匠アン・リーが、再び愛のタブー
に挑戦、2作連続でヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞した話題作。性愛シーンの
過激さばかりが取り上げられている感があるが、158分の長尺を全く感じさせない
素晴らしい人間ドラマだった。人間の心の深淵に迫り、情欲の中で生まれる愛と
葛藤
を描き切って見事。再見確定!

 ちょうど一年前、この映画の公開が決定、という記事を書いた。その後、賛否両論
の中でヴェネチアでグランプリを取ったり、アカデミー賞・外国語映画賞のノミネート
から外されたり
(純粋な台湾映画ではない、という理由?)、中国では性愛シーンが
カットされたりといろいろあって、やっと日本でも公開の日がやってきた。待って、
待っての作品だけに、感激もひとしお。何もかもが素晴らしいのだけれど、まずは
主役二人の演技から。

ラスト、コーション4

 この映画を端的に表現するならば、「ワン・チアチーの物語」ではないかと思う。
生まれながらの女優であり、演じることと実人生が逆転してしまった一人の女スパ
イ。ほとんどのシーンでチアチーが出ずっぱりであることに驚いたし、映画初出演な
がら難役を(文字通り体当たりで)演じ切ったタン・ウェイには拍手と、最大級の賛辞
を送りたい。北京語、上海語、広東語、英語を澱みなくこなし、『天涯歌女』を歌い、
トニーとの二人芝居でも決して引けを取っていない。それを可能にしたのはもちろん、
彼女を抜擢し、鍛え、演出においては全く妥協を許さなかったであろうアン・リー
ですね(笑)。彼はキャスティングの鬼であり、演出の鬼であり、新人のタン・ウェイ
にとっては最高の教師だったのだろうと思う。そして、彼女とともに最高難度の大役
を演じたトニー・レオン。改めて彼の凄さを思い知らされた映画だったようにも思う。

ラスト、コーション2

 私がトニーに感電したのは『花様年華』だったのだけれど、彼の目からは「何か」
出ているとつくづく思う。実際の彼がどんな人物なのか知る由もないけれど(きっと見
かけ通りのやさしい人だと思うのだが)、役によってどんな人物にも成り得る、稀有な
才能
を持った役者だと思う。涙なんかは序の口、そのさえもコントロールしてしまう
技量に改めて感動してしまった。彼は演技の神様に選ばれた人なのだ。
 イーという人間は、用心深くて狡猾で孤独で臆病なサディストなのだけれど、どこか
滑稽にも映る。トニー以外にはこの役はできなかった、などと言うのは傲慢かもしれ
ないが、トニーがこの役を演じてくれて私はよかったと思う。身も心も曝け出し、「死に
たくなるほど辛かった」
としても、彼以外のイーは見たくなかった。ただ、老け役といえ
どもトニーはかなりの童顔ゆえ、イー夫人を演じたジョアン・チェンがどうしても「姉さん
女房」
に見えてしまったのだが・・・。

ラスト、コーション3

 他にもいろいろと書きたいことはあるのだけれど、今日はひとまず初見の感想
して、また改めたいと思う。キネマ旬報原作や、プログラムなどもじっくり読んで、
再びこの作品に対峙したい。

『ラスト、コーション/色・戒』監督・製作:アン・リー
    主演:トニー・レオン、タン・ウェイ/2007・米、中、台湾、香港)

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[2008/02/07 12:58] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(30) | コメント(28) |
祝!ISAノミネート~『ラスト、コーション/色|戒』
 例年、アカデミー賞の前日に発表される米インディペンデント・スピリット・
アワーズのノミネーションが発表
されました!詳細はコチラ

色、戒ポスター2

『ラスト、コーション/色|戒』からは、主演男優賞トニー・レオン、主演女優賞
タン・ウェイ、撮影賞ロドリゴ・プリエトの三部門がノミネート
されました!
素晴らしい~!!おめでとうございます♪

 以前、香港在住『ラスト、コーション/色|戒』をご覧になった方にコメントを
いただき、「梁朝偉の演技はスゴイ」とおっしゃっておられたのですよ過去記事
トニーも「(撮影は)死にたいくらい、辛かった」と語っておりました。全てをさらけ
出し、身も心もこの作品に捧げたのでしょうね。。ありがとうトニー(涙)。

 タン・ウェイ嬢映画初出演で難役を演じ切り、国際的な賞にノミネートされた
ことは快挙と言っていいと思います。

 撮影に関しては、ヴェネチア映画祭でも金オゼッラ賞(撮影賞)を受賞しています
し、ロドリゴ・プリエトさんですから間違いなし、文句なしの素晴らしい映像なの
でしょうね~。わくわく。

 ところで、この記事ちょっと笑ってしまいました。
『ラスト、コーション/色|戒』「Ang Lee's controversial」って形容されている
んですよ。controversialって、BBMの時にも何度も目にした言葉です。

監督、本当にいつもいつも・・。議論に値する素晴らしい作品を、ありがとう。
まだ観ていないのですが、信じていますよ。

テーマ:賞レース - ジャンル:映画

[2007/11/29 09:50] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(1) | コメント(4) |
早く観たい、どうしても観たい~『ラスト、コーション/色|戒』
色、戒ポスター4

 オフィシャルサイトはもうすぐオープンらしいのですが、特報(ドキドキ)、上映館
情報
は見られます。コチラ⇒『ラスト、コーション/色|戒

 TOHOシネマズ系で全国公開とは言え、上映館が少ないですね・・・。上映のない
県もたくさんありますし。

アジアの影帝トニー・レオン主演、オスカー受賞のアン・リー監督、ヴェネツィア
映画祭金獅子賞受賞作
であっても、かなりレイティングの厳しい作品ですから仕方
ないのでしょうか。観客層が限られますからね。。

 来月にはアン・リー監督初めキャストも来日するようですが、トニーの来日は未定
のようですね。また原作本も集英社文庫より発売されますが、読んでから観るのは
止めておこうと思います。理想としては一度観てから原作を読んで再度鑑賞、なの
ですが、二回以上観に行けるでしょうか。。

 上映は正月第二弾ということですが、2月かな? 遅いよ~。どうしてこんなに
日本でだけ公開が遅いのでしょうね? アメリカや香港などで既にご覧になった方
のレビューもネットにかなりアップされておりますが、もう、読むのを我慢するの
に必死
です(笑)。

 あ~、早く観たい! どうしても観た~い!!(叫)

テーマ:気になる映画 - ジャンル:映画

[2007/11/27 14:46] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(0) | コメント(6) |
アン・リー監督、トニー、おめでとう!!~『色・戒/Lust, Caution』
 2007年ヴェネツィア国際映画祭において、アン・リー監督最新作『色・戒/
Lust, Caution』
が最高賞の金獅子賞を受賞しました!

20070909102406.jpg




 色・戒Se, Jie/Lust, Caution


 1940年、日本統治下の上海を舞台に、政府高官と彼を誘惑する女スパイとの
愛と葛藤を描いた作品。主演は我らがトニー・レオン

 アン・リー監督は2005年度にもご存知ブロークバック・マウンテンで金獅子賞
を受賞しています。2作品連続で金獅子賞受賞は快挙ではないでしょうか?!
アン・リー監督おめでとうございます!!


20070909102521.jpg

 この作品、性愛描写が過激で、アメリカではNC-17(17歳以下の入場を制限)
のレイティングを受けたそうです。トニーも撮影はかなり辛いものだったと語って
いたようですが、この受賞でその苦労もいくらかは報われたのではないでしょうか?
おめでとうトニー!!

 公開が楽しみですね♪ 公開決定!『Lust, Caution/色・戒』

 ちなみに、ボブ・ディランを6人の俳優が演じたことで話題のI'm not there
審査員特別賞女優賞(ケイト・ブランシェット)を受賞した模様。こちらも楽
しみですね~、早く観たい~。。

テーマ:★映画ニュース★ - ジャンル:映画

[2007/09/09 10:32] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(2) | コメント(10) |
公開決定!~『Lust,Caution/色・戒』
 みなさま、お元気ですか? 上機嫌の真紅です(笑)。その理由はと言いますと・・。
アン・リー監督の最新作『Lust,Caution/色・戒』の、日本での上映が
決まりました!ソースはコチラ
しかも配給は、ブロークバック・マウンテンでもお世話になったワイズポリシー
さんです。今年四月に創立10周年を迎えられるそうで、「10周年記念作品の目玉」
だそうですよ!公開は年末かな? ああ~、待ち遠しいですね!

20070209140003.jpg

 主役の面々


 ★注:モノクロ作品ではありません

20070209140235.jpg

 監督のダウンは
 「色・戒」のロゴ入り



 ご存知、アジア人で初めてアカデミー賞監督賞を受賞したアン・リーと、同じく
アジア人で初めてカンヌ主演男優賞を受賞した影帝トニー・レオンとの初タッグ!
これは期待するなと言うほうがおかしい!

 撮影はBBMでも監督とコンビを組んだロドリゴ・プリエト。製作は『グリーン・ディス
ティニー』『HERO』のビル・コン。今秋全米(フォーカス・フューチャーズ配給)・アジア
同時公開(日本を除く)が決定しているそうです、、(日本を除く)って、他国は秋頃
公開なのかな?

 どんなお話かと言うと、「1940年前後の日本占領下の上海と香港を舞台に、2人
の立場の違う男と、その間で揺れる女スパイとのスリリングな心理的駆け引きを描く」

のだそうですよ(同じくコチラより)。

 ああ~、ホントに待ち切れない、早く観たい!でもその前に『傷城』かしら♪

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[2007/02/09 14:11] | ラスト、コーション/色・戒 | トラックバック(1) | コメント(6) |
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いつまでも青臭い映画好きでいたい。愛おしい映画と、忘れがたき本たち。ときどきカフェとか。 記事は基本的にネタバレあり。 どうぞご贔屓に♪

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