![]() MOTHER 韓国の田舎町で小さな漢方薬局を営む母(キム・ヘジャ)は、殺人事件の容疑 者となった最愛の一人息子・トジュン(ウォンビン)を救うべく奔走する。 韓国の若き天才、ポン・ジュノ監督の長編第4作。濃厚過ぎる母と子の愛情、 断ち難い絆、狂気をまとう母性を描くサスペンス。兵役を経たウォンビンの映画 復帰作でもあり、ウォンビンは「コンミナム返上」とばかりに、難しい役柄に挑戦 している。 監督の演出には、観る者に対してこの親子に対する安易な感情移入を許さな い、複雑さと厳しさを感じる。母と子のストレートな愛情を描いた凡百の映画とは 一線を画す、一瞬たりとも目が離せない秀作。不気味で不穏なオープニングか ら、息をするのも忘れてしまうほど引き込まれた。涙も出ない。 ![]() 細く暗い路地を行く少女の白いふくらはぎに、傑作『殺人の追憶』がダブる。こ の作品もまた、血と暴力、狂気と紙一重のほとばしる激情を描く、韓国映画の王 道を往く作品だと言える。しかし、敢えて自分の代表作と似た背景を持つ題材を 選んだ、監督の意図はどこにあるのだろう。 その答えは、タイトルロールである母を演じたキム・ヘジャの表情に、見開かれ た大きな瞳に宿っている。過去に自分が犯した罪への呵責から、息子に対して 盲目的な愛情を捧げる母。「血を分ける」などという生易しい表現では到底、表し ようがないほど、この母の息子への思いは狂気に苛まれている。血の巡りが悪 い息子・トジュンは、5歳の時に自ら成長を止めてしまったかのような青年。彼の ことを「純粋」だとか「無垢」だとか、私は表現したくない。彼は「パポ野郎」と言わ れることが何よりも嫌いな、プライドを持った一人の人間なのだ。 ![]() 何があっても子どもの無実を信じる−−これは母親であるならば、ごく当たり 前な感覚だろう。しかし彼女は行き過ぎてしまった。情動は極限を超え、新たな 悲劇を生む。母と子だけが知る真実、決して許されない罪が明かされるスリリン グな展開に、息を呑む。 全て意味のある完璧なショットの数々は、もう一度観ればさらに深みを感じら れそうな気がする。イ・ビョンウによる哀愁を帯びたギターがまた、素晴らしい。 踊る母の姿とともに、あのテーマ曲が耳に残って離れない。 ただ、ポン・ジュノの過去作品は、傑作、良作と思いこそすれ「好きな映画」だ とは思ったことがない。本作も、まさに、まさしく、そういうタイプの作品だった、と 思うのだった。 (『母なる証明』 監督・原案・脚本:ポン・ジュノ/ 主演:キム・ヘジャ、ウォンビン/2009・韓国) テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画 ![]() |
![]() Michael Jackson's This Is It 2009年6月25日、目前に控えたロンドン公演のリハーサルを重ねながら50歳 で逝った天才アーティスト、マイケル・ジャクソン。舞台演出を担当したケニー・オ ルテガによってそのリハーサル映像が映画となり、2週間限定で公開されてい る。チケット発売日に指定席はゲット。シネコンの一番大きいシアターは満席。 感無量です。 「怒ってないよ、愛”L-O-V-E”なんだ」 ![]() マイケルと踊るために世界中から集まった若いダンサーたちのコメントから、 もうウルウルモード。彼らが幼い日、歌い踊るマイケルを観てどれほどの衝撃 を受けたか。彼らはマイケルのファミリーであり、一番熱狂的なファンでもある ことが、映像から強く深く伝わってくる。 10年ぶりのツアー(リハーサル)でありながら、マイケルの歌とダンスが全く 錆びついてないことに驚かされる。フロアに吸いつきながら、柔らかく自在に 動く長い脚。軸がぶれない上半身、能弁な腕。一度観たら、決して忘れられ ないそのパフォーマンス。凄い、凄過ぎる。『ビリー・ジーン』で着る予定だった という電飾の付いた衣装、見てみたかった。 完璧主義者であり、挑戦者だったマイケル。そしてそれ以上に、謙虚さと思 いやりに溢れていたマイケル。若いギタリストをサポートする、やさしいマイケ ル。そして一番印象的だったのが、監督であるケニー・オルテガへ向けられ た愛と信頼だった。ケニー・オルテガはマイケルの死後「彼は天使だった」と 語っている。 ![]() しかし、10年というのは決して短いブランクでないこともまた、現実。イヤホン の音に慣れず、「歌えない、耳に拳を突っ込まれているみたいだ」と訴えるマイ ケルは痛々しかった。そして、その直後に流れるのは『I'll be there』。 この映画の中でジャクソン5時代の歌、とりわけ私が一番好きなあの曲をマイ ケルが唄うとは、思ってもみなかった。兄弟と両親への愛と感謝を口にするマ イケルに、この人は本当にピュアな魂を持っていると感じる。涙、涙・・・。 スキャンダルにまみれ、表舞台から遠ざかっていた彼を、迷子のように感じ ていた。しかし、真実が見えていなかったのは私の方だったのだ。マイケルは、 ずっと変わらずそこにいたのに。彼を理解しようとしていなかったのは、私の 方だったのだ・・・。 「地球を守ろう」というメッセージとともに、映画は幕を閉じる。そしてその 瞬間、力強い拍手がシアター内に鳴り響いた。ファイナル・カーテンコール。 魅せてくれて、ありがとう。 (『THIS IS IT』 監督:ケニー・オルテガ/ 主演:マイケル・ジャクソン/2009・USA) テーマ:この映画がすごい!! - ジャンル:映画 ![]() |
![]() CLEAN 売れない歌手エミリー(マギー・チャン)は、カナダでの巡業中、ドラッグの過剰 摂取で元スターだった夫リーを亡くす。麻薬所持で服役したエミリーは、かつて 働いていたパリで再出発を期すのだが・・・。 元祖「アジアの小顔ちゃん」であり、カンヌ映画祭で主演女優賞を獲得したこの 作品を最後に半引退状態が続いている張曼玉マギー・チャン。久々に出演する のでは?と期待していたタランティーノの新作にも登場しないようで、この機会を 逃すともう二度とマギーをスクリーンで拝めないかも。。そんな思いで劇場へ。 彼女の元夫でもあるオリヴィエ・アサイヤス監督作品は初見。 しかし、マギーといいイ・ヨンエといい、脂の乗り切ったアジアを代表する大女優 の新作が観られないというのは寂しい限り。映画って、いい男が出ていればそれ でいいってものでもない。いつかまた、スクリーンに大輪の花を咲かせて欲しい。 ![]() 落ちぶれた女が子どもとの触れ合いを求め、結局「自分の居場所」に帰ってゆく。 マギーの背中を追うカメラを観ながら、『レスラー』みたいな話だな、と思っていた。 ミッキー・ロークにはいたく感動させられた私だけれど、残念ながら本作は、さほど 心に沁みる作品というわけでもなく。。前夜の夜更かしも祟って、ひたすら「眠い」 映画だった。 エミリーが夫のリーや、息子のジェイや、自らの歌に対してどれほどの「思い入 れ」を持っていたのかが、全然伝わってこなかった。だから、ラストシーンの涙も、 私の心には響いて来なかったんだと思う。4年越しで観たい、観たいと願い続け てきた作品だっただけに、残念。しかし、エミリーの義父アルブレヒトを演じたニッ ク・ノルティはよかったと思う。息子を亡くし、孫を愛し育てても、結局「おじいちゃ ん」でしかない彼。子どもは、母親を求めるものだから・・・。 ![]() 心斎橋にあるミニシアターは、大好きな映画館の一つ。単館上映作品が多く、 みなさん本当に、映画がお好きなんだろうな〜、という感じのお客さんが多い気 がする。そしてこの作品を観た日は、なんとベビーカーを押した若い女性が鑑賞 していた。 赤ちゃんは、推定1歳未満児。場内が暗くなって、怖がって泣き出すんじゃな いか、と私は気が気でない。案の定、ぐずって泣きだす。あやすお母さん。泣き やまない、立ち上がってあやし始める。 子どもが生まれてしばらく、本当に長い年月、映画館に行けなかった。だから 私は『千と千尋の神隠し』を映画館で観ていない。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』 も観ていない。でも、当時はそれが当たり前のことだと思っていた。 エミリーは、ジェイ(ジェームズ・デニス)を義両親に預けて、夫と夢に賭けて いた。あのままずっとリーが生きていたら、エミリーはジェイをどうしていたのだ ろう。誰もが母親である前に、一人の人間である、それはわかっているのだけ れど・・・。英語、フランス語、広東語を自在に操るマギーを見つめながら、どう してもエミリーに感情移入できない私がいるのだった。 (『クリーン』 監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス/ 主演:張曼玉マギー・チャン、ニック・ノルティ/2004・加、仏、英) ![]() |
![]() THE BOAT THAT ROCKED 1966年、イングランド。世はブリティッシュ・ロック全盛期、しかしBBCラジ オはロック&ポップを一日45分間のオンエアに制限していた。そこに、公海 上に停泊した船から音楽を流す海賊ラジオ局が現れ・・・。 リチャード・カーティスによる、実話を基にした痛快音楽群像劇。いや〜〜、 これは素晴らしい、面白かった! 期待はしていたけれど、全く裏切られず。 この映画を忘れたくなくて、今年初めてサントラを「即買い」してしまった。 上映が始まってすぐ、この映画をスクリーンで観ている自分は本当に幸せ 者だと感じる。間違いなく、今年のベスト作の一本です。超オススメ。 ![]() 当時の音楽に詳しいわけがないけれども、耳に馴染むロック・クラシックの 数々が心地よい。ワーキング・タイトル印のブリティッシュたちが演じる曲者 揃いの個性派DJに交じって、アメリカからのゲストはフィリップ・シーモア・ ホフマン。「伯爵」こと花形DJ、カウントを演じる。 彼と敵対するも、「痛み分け」後は互いに認め合って友情を結ぶカリスマDJ ギャヴィンにはリス・エヴァンス。この「メタボなアメリカン VS. 変なウェール ズ人」が、本作のハイライトの一つ。 高校を退学になり、更生?のためにこの海賊船に送り込まれたカール(トム ・スターリッジ)。彼の奔放なママがエマ・トンプソンだなんて、意外にもハマ ってる! 純情ボーイ・カールの恋の行方、未だ見ぬ父への想い。じ〜んと 来ます。憎まれ役の政府高官、ケネス・ブラナーがヒトラーみたいでホント、 気の毒(巧いけど)。 そしてそして、海賊ラジオ局のキャプテン・クエンティンのビル・ナイ!! もう〜〜、素敵♪ グレンチェックのスーツにペイズリー柄のスカーフ、その 佇まいも何とも言えず、おしゃれなんです。。ビル・ナイって、私の理想の人 だわ。。←いつからジジ専になったんだ ![]() ただ、難点もあり。この映画、長いんですよ・・・。尺は135分なので特別長尺、 というわけでもないのだけど、一度大きなクライマックス(政府の妨害にDJたち が絶対に屈しないと決意する場面)が来てから、続きがあるので拍子抜けしてし まう。もちろん、その後も様々なエピソードが続いて決して冗長なわけではない のだけれど、ちょっとサービス過剰な感が無きにしも非ず。しかし、レズビアンの フェリシティ(キャサリン・パーキンソン)にまで素敵なロマンスを用意する辺りが、 「Love actually is all around」なリチャード・カーティス特有のやさしさなん だな、と良い方に解釈したいと思う。 ロックンロールへの大いなる愛に包まれながら、観終わってしばらく、席を立 ちたくなかった。船は沈んでも、海賊たちは誰も死なない。もちろん、音楽も。 (『パイレーツ・ロック』 監督・製作総指揮・脚本:リチャード・カーティス/ 主演:フィリップ・シーモア・ホフマン、ビル・ナイ、リス・エヴァンス、 トム・スターリッジ、ケネス・ブラナー/2009・英、独、米、仏) ![]() |
![]() 恋人に裏切られ、何もかも無くして声さえも失った倫子は、10年ぶりに故郷の 村へ帰る。 「たとえ素っ裸にされたとしても、私は料理を作ることならできる」 草野マサムネが帯の惹句を書いていて、気になっていた本作。柴咲コウ主演、 フードコーディネーターは飯島奈美さんで映画化されると知り、読んでみた。 一気に読了。「生きることは食べること」という生命の基本が謳われる、瑞々し い物語。 主人公の倫子は、バイト先から帰るとアパートがもぬけの殻になっていた・・・。 こういう話って、本当にあるんですよね。。私の知り合い(具体的に言うと義兄の 幼なじみ)も、全く同じ目に遭っているんです。その人も料理関係の仕事(パティ シエ)だから、なんだか似たような話だな〜、と思ってしまった。 倫子の作る料理は、本当に手がかかっていて、心がこもっていて、おいしそ うで・・・。これは映画が楽しみ。でも、不安な部分もある。 この小説で一番印象的だったのは、倫子が無花果の木の上で髪を切る(そ してその後ほとんど剃り落としてしまう)場面と、エルメスの「解体」場面。どち らも演じる役者さんにとっては、かなり勇気の要るシークエンスだと思う。先日 劇場で観た予告篇では、予想通り柴咲コウの髪は長いままだった。 そして、もっとハードだと思われる「解体」。小説では、作者が実際体験(また は見学)したことがあるに違いないと思わせるほど、その様子が詳細に描写 されている。映像にするには難しいだろう、しかしこの場面がなければ、小説 の主題である「生命」を敬い、大切にいただくという思想が描けないのではな いか。 「私にとって、料理とは祈りそのものだ」 倫子のこの荘厳なまでの「覚悟」を 大切に、映画化して欲しいと願う。 (『食堂かたつむり』 小川糸・著/ポプラ社・2008) ![]() |
![]() ASTRO BOY 未来の地球。ロボットが人間に仕える空中都市メトロシティ。ロボット工学 の大家テンマ博士の息子トビーは、軍事用ロボットの実験中に事故死して しまう。嘆き悲しんだ博士は、息子そっくりの人型ロボットを完成させるのだ が・・・。 日本における「漫画の神様」手塚治虫氏の代表作を、ハリウッドが映画化 したCGアニメ。手塚治虫生誕80年を記念した作品らしい。 アトムのアニメは観ていないし、思い入れもないが、豪華声優陣に惹かれ てずっと前から観たかった。しかし、字幕版の上映は日本でたった2館のみ の上映なんですね・・・。というわけで吹き替え版にて鑑賞。オープンングで クレジットされるフレディ・ハイモア、ビル・ナイ、シャーリーズ・セロンらの名 前を眺めながら、つくづく残念、と思ってしまった。 ![]() 父の愛を失い、地上世界で新しい仲間と「自分の居場所」を探して生きようと するアトム。健気でかわいいんだけど、観ている間中、何故だかずっと違和感 がつきまとう。 まず、アトムを創ったのは「お茶の水博士」だとばかり思っていたのだけど、 「テンマ博士」なんですね。シラナカッタ アトムの声を務めた女優さんは声優経験豊富な方だけれど、普通に男の声 優さんが演じるわけにはいかなかったのだろうか。大人の事情? キャラクターの造形は『ルイスと未来泥棒』とか、『アイアンマン』を思い出さ せる。そう、これはハリウッド映画なんだな、、って。当たり前なんですけどね。 私が知っていたのは、谷川俊太郎によるあの有名すぎるテーマソング。あれ は本当に、世紀の名曲ですね。アメリカでは今週末から公開だとか。私は物語 に入り込めず、イマイチ楽しめなかったのだけど、さて、あちらでは大ヒットする のでしょうか。。要注目です。 ![]() (『ATOM』 監督・脚本:デヴィッド・バワーズ/ 原作:手塚治虫『鉄腕アトム』/2009・香港、米、日本) ![]() |
![]() 才能に溢れてはいるが大酒呑みで金にルーズ、女癖も悪い新進作家の大谷 (浅野忠信)は、馴染みの料理屋から金を盗んでしまう。しっかり者の妻佐知(松 たか子)は、そんな大谷を庇い、料理屋で働いて借金を返そうとする・・・。 生誕100年を迎えた昭和の大作家・太宰治の同名小説の映画化。第33回モント リオール世界映画祭において、根岸吉太郎が監督賞を受賞した話題作。終戦後 の昭和を再現した美術、映像はもちろん、俳優たちの確かな演技が光る力作。ち なみにフードスタイリストは飯島奈美さん。 文学少女の通過儀礼的作家・太宰治には、ご多分に漏れず、中高生の頃ハマ リにハマった。今でも私の本棚には、黒い背表紙の新潮文庫がズラリと並んでい る。いつか三鷹に行ってお墓参りがしたい、桜桃忌に行けたら一番いい・・・、など と夢想していたものだが、正直、大人になってからはほとんど読み返すこともなか った。(それは多分、村上春樹に出逢ったせいだと思うのだけれど) 不思議と、今まであまり映像化されることのなかった太宰作品。浅野忠信主演 と聞けば、楽しみにしないわけがない! 思い入れが生々しいままでなく、思い 出に変わった今だったから、よかったのかもしれない。期待通りの出来栄えに、 まずは満足。 ![]() 太宰自身が投影された大谷を演じた浅野くん、素晴らしかった。「生き写し」と でも言おうか、だらしなくて嫉妬深くて自己中で狼少年で、それでも心惹かれず にはいられない男、そのもの。「付き合ってくれますか」。あの頬杖は・・・反則 でしょう。 そんな夫に尽くして、尽くして、裏切られて・・・。それでも離れない妻、佐知。 でも彼女はただの、耐え忍ぶ女じゃない。自分という人間の美しさを知り、価値 に気づき、人生を切り開こうとしている強い女。自分に惹かれている若い男、 岡田(妻夫木聡)を拒むこともなく、初恋の男、辻(堤真一)の事務所に、口紅 一つで乗り込んで行く。「お金、無いんです」。カワリニワタシヲカッテクダサイ 互いに引け目を感じ合っている大谷と佐知は、ある意味、似た者同士なのか もしれない。 ![]() いつもは顔を見るとゲンナリしてしまう広末涼子が、本作ではそれほどに悪く はなかったかな。あの、最後の勝ち誇った表情・・・。人情に厚い料理屋の夫婦、 室井滋と伊武雅刀も「庶民」を体現していた。光石研や新井浩文の顔がチラリと 見えたのもうれしい。そして残念ながら、妻夫木聡だけはこの映画の「色」に合 っていない気がした。 「女には幸せも不幸もありません。男には不幸だけがあるんです」気障なセリ フの数々は、やはり太宰が天才だったと再認識させてくれる。 憎み切れないロクでなし。しかしその手は、妻にしっかりと握られている。 (『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ』 監督:根岸吉太郎/ 主演:松たか子、浅野忠信、妻夫木聡、堤真一/2009・日本) ![]() |
![]() 例えば映画『空気人形』を観たとき きっと多くの人が一番感銘を受ける場面は ペ・ドゥナ演じる「空気人形」のぞみが 愛する人の「息」で満たされる場面なんだろうと思う。 しかし私があの映画で一番心揺さぶられたのは ペ・ドゥナがたどたどしい日本語で朗読した「生命は」だったりする。 こんな時は、自分がつくづく「映像的な人間じゃない」と 落ち込んだりもするのだけれど 吉野弘の詩集を読みたくてたまらなくなる自分を 無理に抑えようとも思わない 私に欠けているものは きっと誰かが埋めてくれる (『吉野弘 詩集』 吉野弘・著/ハルキ文庫・1999) ![]() |
![]() 映画『色即ぜねれいしょん』を大変面白く観たのはいいのだけれど、原作者で あるみうらじゅん氏について、ほとんど無知な自分にある日突然気づいた。知っ ていることといえば、「マイブーム」の人、というくらい? だいたい、あの映画の主人公「純」が、みうら「じゅん」であることにも、かなり 後になって気付く始末。でも「みうらじゅん」って姓・名って感じしないですよね? 「みうらさん」じゃなくて「みうらじゅんさん」じゃないとダメ!な感じ。わかります? この本はそんなみうらじゅん先生の人生指南書。「自分が・・・自分は・・・」と ガツガツすることはない、そもそも「自分」なんてない。全ては「空」だ、という 「色即是空」的、則天去私な一冊。意味不明? ボンノウ丸出し、と言いつつも、書かれていることは物凄く悟っているような、 いないような、奇妙な浮遊感が漂う。もちろん、小難しい「人生訓」を垂れるわけ ではなく、仏像のいらっしゃる奈良への愛、両親(特にオカン)への思いなんかも 綴られ、下ネタを語ってもお下劣にならないところはさすが、京都人!(違うか)。 プププと笑え、ムムムと考えさせられ、後引くこともなく、それでいて確実に 人生の滋養になってそうな。みうらじゅんが人生の師匠だったら、なんだかもう 少し、楽に生きられそうな気がしてくるのだった。 (『さよなら私』 みうらじゅん・著/講談社・2009) ![]() |
![]() 新卒で入った会社を三ヶ月で辞めたフリーターの武誠治は、ある日母親の様子 がおかしいことに気付く。彼女は重度の鬱病を患っていた。 人気作家・有川浩さんの新作は、出遅れると予約数が大変なことになり、一体 いつ読めるかわかったもんじゃない。今回は『三匹のおっさん』より先に、こちら が回って来た。 文体同様、フットワークが軽い有川さん。携帯小説だった『植物図鑑』に続き、 本作はWeb連載だったらしい。 一読すれば、その人気の理由もわかる。とにかくテンポがよく、文句なしに 面白い! ページを開けば、後は止まらぬ一気読み。 ヘタレで甘ちゃんだった主人公が、母親の病気を機に一念発起し、社会人と して成長してゆく物語。タイトルは『元フリーター、家を買う。』が正しい。 有川さんお得意の「ベタ甘ラブ」はグっと少なめだけど、ご安心下さい、ちゃん と出てきます。 仕事って、お金も条件も大事だけど、結局人間関係なんだよな、って思う。 それから、縁。我慢も大事。言い訳はご法度。「お前がシフト入ってると、みん な楽しかっただろうなって」。 こんなこと、言われてみたいなー。 (『フリーター、家を買う。』 有川浩・著/2009・幻冬舎) ![]() |
![]() クリスマス間近の東京。ファミレスで働く独り暮らしの秀雄(板尾創路)は、性欲 処理用のラブドール(ペ・ドゥナ)に「のぞみ」と名付けていた。ある朝、のぞみに 心が宿り、彼女は街に出てゆく・・・。 是枝裕和監督が韓国の人気女優、ペ・ドゥナを主演に迎えたラブ・ファンタジー。 しかし透明感に溢れた映像と、詩的で寓意に満ちた展開とは裏腹に、物語は衝撃 的な結末を迎える。 この映画のプロモーションを観る度、「ずっとオリジナル脚本にこだわって来た 是枝監督」という惹句が気にかかった。監督のデビュー作『幻の光』を比較的最近 観て、いたく感動してしまった自分は、あの映画が監督の中で「なかったこと」に されているのか、と酷く残念に思うのだった。しかし公式サイトの監督インタビュー によれば、あの映画は「プロデューサーからオファーがあって」撮ったもの、らしい。 ![]() この映画の素晴らしさの第一は、間違いなく主演のペ・ドゥナだろう。人形が 心を持ち、生身の世界に触れ、限りある時間を生きる人間になろうとする過程 を、完璧と思える演技で表現している。 序盤の、いかにも「人形らしい」歩き方、首の傾げ方。橋の上ののぞみを捉え たロングショットは、人形を映しているのか、それともペ・ドゥナが立っているの か一瞬、混乱してしまうほど。ガラス玉のようだった瞳が表情を持ち、風や光や、 土に触れる。何故だか、『あかちゃんのうた』という絵本を思い出す。 「歳をとらない」ことに価値がある人形から、いつかは死に、「燃えないゴミ」とな る運命を受け入れるのぞみ。たどたどしい言葉も、やがて感情を帯び始める。 そして彼女の潔い脱ぎっぷり! ベッドシーンでさえ白ブラつけているような ハリウッド女優や、絶対に肌を見せない日本の女優たちは、本作のペ・ドゥナ を見て、どんな風に感じるんだろう。 のぞみが出逢う人々−−レンタルビデオの店員、オーナー、その客、トウの立 った受付嬢、元代用教員−−みんながみんな、孤独を抱え、空虚な心をごまか し、なんとか折り合いをつけて生きようとしている。自分を空っぽだと感じることは、 誰かを愛し、愛されている実感を得られない、ということなのだろうか? 「心を持つことは 切ないことでした」 ペ・ドゥナ以外のキャストも、皆さすがの名演技。中でも、人形師オダギリジョー が登場した瞬間、映画の空気が高揚したように思ったのは私だけだろうか。 ![]() 生きるということは死を引き受けることであり、愛するということは即ち、失う ということでもある。「息」という言葉は「生き」に繋がる。「生」は「性」であり、 それらがどう絡み合い、輪廻し再生産されるかは宇宙の謎だ。秀雄の部屋 にあった、惑星のバルーンやプラネタリウム・・・。孤独に生きる彼、そして誰 もが無意識のうちに、その謎を解きたいと願っているのかもしれない。 吉野弘の詩、「生命は」と「I was born」が印象的に使われている。あまり にも心揺さぶられる詩なので、全文載せてしまいたいくらい。キム・ギドクな テイストを感じた終盤の展開、『さよならみどりちゃん』のユウコのその後、の ような星野真里がつぶやくラストの一言には、賛否両論あるだろう。しかし私 は、あの言葉をのぞみが「生きた」証しだと捉えたい。 (『空気人形』 監督・脚本・編集:是枝裕和/原作:業田良家/ 主演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路/2009・日本) ![]() |
![]() 『プール』『めがね』など、数々の映画で料理制作を担当するフードスタイリスト、 飯島奈美さん。彼女が週刊誌『アエラ』で連載した「シネマ食堂」を元に、新しく 構成されたのが本書。様々な映画に登場する料理シーンを一時停止し、紙上に 再現した素晴らしい本です! 表紙はご存知、『かもめ食堂』のシナモンロール。あの映画を観たとき、映像か らシナモンの香りが漂ってきたような気がしたものです。裏表紙は『トンマッコル へようこそ』の空飛ぶポップコーン! こちらも、忘れられない映画です。 飯島さんはフードスタイリストとして独立後、『かもめ食堂』が初めての映画作品 だったんだそうです。あの映画で小林聡美が演じた主人公・サチエさんの作る料理 の数々の、本当においしそうだったこと! その後の『めがね』に至っては、観なが らほとんど怒りが込み上げて来たものです。「食わせろ!!」と(笑)。 最新作『南極料理人』も、お腹が空いて堪らない映画でした。 そんな飯島さんのビジュアルは、「ああ、こういう人なんだぁ〜」とうれしくなる感じ。 肝っ玉母さん風と言うか、福々しいと言うか・・・。「この人の作る料理は、絶対おい しいだろうな」と思える雰囲気なのです。 紹介された映画の数々は観てきたものが多いのですが、「この映画にこんな料理、 出てきたっけ?」と思うものもたくさんありました。おいしそうな料理を眺めながら、 大好きな映画たちに思いを馳せる至福のひととき。レシピもわかりやすく、最高に 「おいしい本」だと思います。是非手にとって、ご覧になって下さい。 (『シネマ食堂』 飯島奈美・著/朝日新聞出版・2009) ![]() |
![]() 乾いた大地に舞い上がる砂埃。轟音とともに一台のピックアップ・トラックが やってくる。ここはメキシコの町。一方、男(松本人志)は目覚めると、真っ白な 壁に囲まれた部屋にいた・・・。 お笑い界の「天才」松本人志の監督作第二弾。カラフルなパジャマを着た松 っちゃんのメディア露出は凄いものがあった。地下鉄の吊り広告にまで登場し てましたから・・・。『大日本人』はもう記憶の彼方だけれど、好奇心には抗えず 鑑賞。 ![]() う〜〜〜ん、これは私はダメでした。93分しかない映画なのに、滅茶苦茶長く 感じてしまった(途中で一瞬、出ようかとさえ思ってしまったほど!)。テレビの コントでやるなら面白く観られたかもしれないけど、映画としてはテンポが良く ない。「しんぼるーむ」でのギャグの数々には結構、笑えたけれど。 修行して、実践して、未来はどうなる? と思わせておいてジ・エンド、という オチにもちょっとガッカリ。映像も安っぽい。 松っちゃんは従来の映画の枠に嵌るつもりも、囚われる気もサラサラないの はわかる。私は彼のお笑いの才能を信じているし、ホンマに「おもろい奴」だと 思ってる。でも、この作品は「いい映画」「面白い映画」だとは思えない。ごめん よ。 これからも彼が映画を撮り続けるなら、「主演」ではなく、一度演じることから 離れてビハインドカメラに徹してみて欲しい。松っちゃんにとっては、自分が演 じるからこそ映画を撮る意味があるのかもしれないけど。 ![]() (『しんぼる』 監督・企画・脚本・主演:松本人志/2009・日本) ![]() |
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真紅のthinkingdays |
いつまでも青臭い映画好きでいたいのです(名前は紅いんですが)。 観た映画と読んだ本の覚え書き。 記事は基本的にネタバレありです。 どうぞご贔屓に♪
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